高校に入ったら、家庭科の授業レベルが上がった。
いちいち人に借りに行くようなことはできない位、
多くのミシン縫製の宿題が出た。
これはもうミシンが無いと、授業に追いつけない。
先生に正直に言ったとしても、
買えない事情のある家庭じゃないんだから
親にお願いしなさい、と言われるだろう。
それに、恥かしくて友人に知られたくない。
と追い詰められた私は、母を無視して父に直接訴えた。
家でミシンを使う宿題が多くなり、
このままでは家庭科の授業についていけなくなる、
これまでの苦労も訴え、ミシンを買ってほしいと伝えた。
すると、父の顔が青ざめた。
~何も知らなかった。そんな苦労をさせていたのか。
どうしてもっと早く言わなかったのか。
学校生活に差し支えることが一番よくないし、
それだけは親として気をつけていたのに。~
と言って、すぐミシンを買いに行ってくれた。
しかも、当時では最高の新型を買ってくれた。
それほど、父のプライドが傷ついたようだった。
父としてとんでもないミスをしていたと
反省したようだったが、かといって謝ってはくれなかった。
当時の父親像なら仕方が無いかな。
成績に影響がなければ、買ってくれなかったかもしれない。

それにしても父の反応は予想外だった。
え?今までの苦労は何だったの?
もっと早くに他の家電も買ってほしい、部活で必要、
学校生活に影響すると言えば
さっさと買ってくれたのか。と力がぬけた。
この時も母に止められ邪魔されていたらと
思うとぞっとした。
こういう無駄な苦労を、我が子には絶対させたくなかった。
現実には、別の事で我慢ばかりさせてしまった。
が、母の様に何もしないで、苦労を子に押し付ける事は絶対したくなかった。
夫には子どもに必要なこと、親としてすべきことは全部言って来た。
それでも、何もしなかった夫は父と違って最低だし、
プライドも無いろくでなしだ。
あの頃の父は、現実を知るとすぐにフォローをした。
単純だし、人間らしさを感じる。
母の話と全然違うじゃないかと驚いた。
それからずっと父はずっと悔いていたのかもしれない。
私が結婚する時、父がお祝いにと買ったミシン。
自分から買ってあげると言う事で、許してもらいたかったのかな。
その気持ちが伝わるだけでいいんだ。
夫に完全に欠けている、人として大事な感情、
それを父には感じた。
ミシンを使う度、父の気持ちを受け止め、大事にしてきた。
それももう寿命で、引退だ。
長い間、お疲れ様。
沢山の思い出も作ってくれた事に感謝してお別れしよう。