りんごの嘆き

人生の後半もだいぶ過ぎた主婦りんごの嘆き。これからは自分らしく生きる。最後は笑って終わりたい。

カテゴリ:人生色々~小説みたいな本当の話 > O恵の結婚

その後、O恵から手紙が何度か届くようになった。


お金の話が多かった。

近所の旦那さんの収入がうちより多いとか、株を買ったとか。
専業主婦で、財テクに励んでいるようだった。


「私の貯金も増えてきたの。絶対生活費には使わないわ。私のお金は私のものよ。主人のお金も私のものよ。お金は全部私が握ってるの」

と書いてあり、一流企業で高収入だからこその財テクが出来て、家庭もうまくいっているんだなと感じた。

我が家の様に、夫の不安定さで、生活の不安なんて全くありえない世界にいた。
しっかり働いてくれるご主人は責任感が強く、後は人生の計画通りにいかに夫婦で頑張るかという意気揚々とした生活の様だった。

そして、一週間に一度は実家に帰って、息抜きしているとの事だった。

結婚の条件をそのまま実行し、ご主人は何も言わず自由にさせてくれていると。
その分、O恵も実家もご主人を大事にしているのはわかる。

その頃の私の生活ぶりなんて、とてもO恵に言えるものではなく、返事には自分の事は書かなかった。我が家の実態を彼女が知ったら、今でも理解できないだろう。そして私に言うだろう。

「どうしてそんな人を選んだの?周りの評判とか収入とか調べなかったの?」と。

彼女が羨ましすぎて、夫に話して反応を見た事がある。

「友人は、実家の近所に住んでいて一週間に一度は帰っているんだって。いいよね~」
と言ってみた。

すると夫は
「何て我儘な嫁なんだ。信じられない。旦那さんはよく黙ってるな。」
ときた。
そして、「エリートとか一流企業なんか僕の友人は皆そうだし、たいした事ないよ。」とひがむ。
自分は気が付いてないのだろうが、とにかく僻みっぽく、嫉妬深い。
なら自分はどうなんだと言いたくなるのをこらえる。

自己愛君は、「妻の実家が旦那を大事にするのは当然のことで、旦那の実家は妻を大事にする必要はない」という姑の考えをそのまま信じている。
自分の考えが無く、ほとんど親と兄から言われた事だけを自分の考えとして言うので、違和感がある。

彼女のご主人と自己愛君では、一家の長としての行動は、天国と地獄の差ほどある。

細かい色々、夫婦しかわからない問題はO恵の家庭にもあるだろうが、それでも、最低限の責任も義務も果たしてない自己愛君に比べれば雲泥の差。


残念ながら私にとって彼女はそういった自分の生活ぶりを話せる友人ではなかった。


その後、年賀状や葉書で連絡がきていたが、順風満帆な結婚生活を過ごしているようだ。

遠く離れた土地から、彼女の幸せが永遠に続きますようにと祈っている。


O恵から学んだ事!☆結婚する時は、自分に正直に、しっかり相手を見て自分が納得できるまでよく考える。(私はもう手遅れだけど)

手紙には、お見合い結婚だったと書いてあった。

やはり相手に対する条件は(懲りずに?)しっかりだしたそうだ。

「あれから、なかなかぴったり合う人が見つからなかったの。主人は長男という事以外、条件にぴったりの人だったのよ。だけど長男でも、実家は遠いし、弟が跡を継ぐから老後帰る必要もないと言われて決めたの。」

ふむふむ。素晴らしいじゃないか。信念を変えず、自分の将来の為にしっかり結婚を考えて居る。

ちゃんと見つかるものなんだなあ。


あれから何年たったかなあ。焦らず探したんだな。


「結婚式は高級ホテルで、ウエディングドレスは桂由美、パールのネックレスは田崎真珠でと思っていたんだけど、現実は、近所の神社で式をあげ、披露宴はレンタルのドレスで地味にやったわ(笑)」と書いてあるのを見て、ほほえましかった。


地味で堅実な人を選んだのかな、今度は大丈夫だよねとO恵の幸せを祈った。


その頃の私はというと、自己愛強い夫に強い違和感を感じ始め、結婚した事に後悔し始めていた。

子どもが生まれて、知らない土地で孤独感で心ががんじがらめになっていた。

しっかり納得のいく結婚を焦らず決めたO恵に対して、自分の現状なんて話せるわけはなく、惨めな気持ちと孤独感で益々落ち込んだ私。

良く考えず、何となく流されて結婚したからこうなるんだと自分を責めていた。


若さゆえ?のいい加減さが原因なのだから、自業自得だった。

何て思われようと、失敗しようと、しっかり自分の人生を大事に考え、じっくりと選んだ相手との結婚をしたO恵を、尊敬した。

O恵は自分を大事にしているのだ。自分が納得いける生き方、自分が確実に幸せになれる様に良く考えていた。自分を素直にだして、自分らしい結婚を選んだのだ。

私は、自分を大事にしていないのかもしれない。どこか人の犠牲?(と勝手に思う)になる、人に尽くすのが美しい生き方みたいに間違った結婚観を持っていたのかもしれない。

後から後悔する位なら、我儘だと言われようが、「私はこうでないと嫌なんだ」と言い張る位の勢いでちゃんと考えるべきだった。

☆自分を大事にしていないから、自分が一番大事という自己愛の強い人を引き寄せてしまうのか。

自分なりに分析していくと、自分の育った環境にも原因があるのかもしれない。


O恵の話は続く。


「私は周囲から祝福されて会社も辞めたのよ。今更結婚をやめるなんて事できない。何故、嘘をついていたの?ひどい!」


O恵は、怒りで一杯になり、婚約者に詰め寄った。


「私は絶対同居しませんと最初に条件にだしていたはずです。それをあなたが承諾したからお見合いしたのです。今更困ります。」



「破談だなんて、世間体が悪い、O恵は仕事も失ったんだ。どうしてくれるんだ。同居をやめてくれるなら、嘘ついた事は忘れてやるから、考え直さないか。」

とO恵側の親族も詰め寄った。

O恵に同居を承諾するように説得したところで、そんな事で結婚してもうまくいくわけがないと親族の誰もがわかっていた。
紹介した人も、責任を感じ、嘘をつかれた事に怒っていた。


そんな中、婚約者の返答はこうだった。

「僕は母親と同居したいのです。母の意志というより、僕の意志です。母を見捨てられません。それがかなわないなら、この話は無かった事にしてください。」


と、むしろ本人の同居の意志が強かったそうだ。

結果、式の直前に破談が決定した。


「相手の本音が結婚する前にわかって良かったわ。世間体は悪かったけど、自分の人生がかかっているのだから、これで良かったと思う。」

とO恵は気持ちを切り替えた様子だった。


そして
「今回の件は、勉強になったわ。」


「文系の人はだめね。次は理系の人にするわ」

という事だった。O恵のユニークさはそのまま変わっていなかった。(笑)


それからO恵は再就職して、時々私のアパートに遊びに来るようになった。

一緒にプロ野球観戦に行ったり、お互いの仕事の話をしたり、婚約破棄の件以来、彼女は私に親しみを持ってくれる様になった。


O恵は何か鎧が抜け落ちたみたいだった。



「ブランド品なら何でもいいと思っていた。今は違う。丈夫で使い易いのが一番ね。以前の私は子どもだったと思う。」
と言いだした。



ほんの1年のうちに、一緒に会社にいた時よりもずっと話しやすい大人の女性になっていた。
顔つきまで変わって笑顔が増えた。


その後私は結婚し、東京を離れ、O恵と会う事もなくなった。


私の第一子が1歳になった頃、O恵から手紙が届いた。



「私、結婚しました!」
と書いてあり、結婚式の写真が同封してあった。

後にO恵から直接聞いた破談の理由は、こうだった。


結婚式の打ち合わせでO恵と婚約者が会う回数が増えてきたのだが、会うたびに相手の様子がおかしくなった。

心ここにあらず、表情も暗い、結婚する気がないのでは?と思えるほど。


何か心配事でもあるのでは?と問いただしたところ、


「結婚の条件の中に、”実家の跡を継がなくてもよい次男である事”というのがありましたが、実は、結婚したら母と同居する事になっています。
兄嫁と母の折り合いが悪く、母は兄夫婦を追い出してしまいました。
母が僕が結婚したら同居すると言いだし、僕は承諾しました。
母が楽しみにしているのを見ていたら、断れなかったのです。
ですから、母と同居してもらう事になります。これまで嘘をついていて、すみません。」

の様な事を言われたと言うのだ。
それからが大騒ぎ、大変だったそうだ。親族や紹介した人などを巻き込んで、彼は責められたことだろう。

この男性はおそらく、最初は嘘をついたまま式をあげてしまえば何とかなる。O恵は諦めて同居に応じるだろうと思っていたのだろう。それだけO恵を気にいったという事かもしれないが。

だが、O恵と接しているうちに、彼女が、自分への愛情は抜きで、結婚の条件への信念の強さをひしひしと感じたのかもしれない。

O恵は、「義親と同居なんて絶対嫌だ、そんな人とは結婚しない。失敗したくないから、条件をはっきり出して相手を選ぶ」と言ってた人だ。

そんな彼女への後ろめたさに悩んでいたのだろう。それが表情や態度にでたのだ。結局嘘をつけない人だったという事だ。

その点、うちの夫は嘘をつくのが当たり前すぎて自覚がない。この婚約者の彼くらい、態度にでたり、後ろめたさをだしていたら、私も気が付いたかもしれない。
夫なら平然としていただろう。

後から嘘がばれても、誰かのせい、何かのせいにして終わりだ。

それにしても、O恵は、式の前に正直に話してもらえて良かったと思う。

その時招待状はまさに投函寸前だったそうだ。


教訓!☆最初は軽い嘘でも、嘘に嘘を重ねていくことになり、やがては相手だけでなく被害は広範囲に広がっていく。嘘はつかないに越したことはないが、小さいうちに正直に打ち明けて、謝る。早ければ早い方が傷口が小さい。


当時の私は、結婚なんて全く頭になく、まずは仕事優先で、そのうち好きになった人と自然に一緒になるものと思い込んでいた。


相手が恋愛対象でないのに、条件さえあえば結婚できるという感覚が不思議だった。


そうはいっても、O恵にとっては生理的に嫌な相手ではなかったのだろう。一緒に暮していけるという気がしたから決めたのだろう。

当時の私にしたら、そこまでして焦って結婚する気持ちがわからない…という気持ちだった。

O恵が以前私にぽつりと言ったことを思い出していた。

「恋愛した事ある?私、無いの。男の人とお付き合いするってどんな感じなのかしら…」

「これからいっぱいチャンスはあるよ!沢山恋愛を楽しもうね!」と一緒に笑ったのに。


私は「もっと独身生活を楽しんで、恋愛して、結婚はそれからでもいいんじゃないの」と言いたかったが言えなかった。

私と彼女は世界が違うんだ…と思った。



その後、結婚式の案内状は、式の1週間前になっても届かなかった。

誰にも届いてないようだった。

どうしたのだろう、事情を聞くわけにもいかないし…と社内で招待される予定の人達で話題になった。


「何かあったのだろう。病気とか、相手の突然の転勤とか…。」
「そのうち連絡がくるだろう」と、黙って待つしかなかった。

結婚式予定日の前日、O恵の直属の上司だった人に彼女から手紙が届いた。

上司がその内容を教えてくれた。


「式の直前になって、急きょ破談になったらしいよ。」

と聞いて驚いた。


自分に言いたい事!☆人は人。自分が正しいわけじゃない。考えを押し付けてはダメ。

「3回しか会ってないのに、決めていいの?本当に大丈夫なの?」

と言う人もいたが、余計なお節介だし、本人が良いのだから周りがとやかく言うのも失礼よねと陰で話す人が多かった。


O恵は、寿退社するのが嬉しそうだったが、これから戦力になってもらうつもりの上司たちは、がっかりしていた。


意外だったのは、誰もが私に「君が先に結婚すると思っていたよ。まさかあの子がこんなに早く寿退社するなんて思わなかったよ。」


どういう意味?と思ったが、理由をきくのが怖くて聞き流していた。


そして「君はやめないよね?」と念を押された。


事務的な仕事の他に、段ボールに入れた商品や書類を台車に乗せて倉庫から出し入れする作業も毎日頻繁にあった。

作業中のO恵に「高価な婚約指輪をしていて大丈夫なの?私なら大事に保管しとくけどね。」と声をかける先輩もいた。


結局入社して2年目にO恵は会社を辞めた。


その後結婚準備を始めた彼女が、用事で会社に来た。


結婚式の招待状の準備をしている事、花嫁修業に専念している事、専業主婦になるつもりで、共稼ぎなんて考えて居ないとの事だった。


「あなたがだした結婚相手に求める条件て何だったの?」と聞いてみた。


「一流大学卒業!一流企業勤務で高収入!長男じゃない事!実家が遠いこと!私を実家に1週間に1度は帰らせる事!専業主婦をさせる事!」

が、彼女がだした条件だという。


そんな都合の良い相手なんているのかな?と思ったが、「探して貰ったら合う人がいたのよ。だから即決めたの。」と、O恵は得意気だった。


彼女は、一流企業に就職したわけでもない。だが、相手に望む条件はレベルが高いというその自信と現実的な考えは、私には無かった。


結婚に夢見る当時の未熟な私とは結婚観が違い、彼女の気持ちを理解できなかった。


私には、そこまで相手に望めるほどの自信も自分に無かった。

おそらく彼女の魅力と家柄とお互いに周囲の薦めもあっただろうし、お相手の方の人柄も良かったのだろう。

いざとなると現実はどうなんだろう。本当にうまくいくのだろうか。と他人事ながら心配だった。
  



新卒で入社してすぐに、同じ部署に配属された同期のO恵は結婚に成功した人だと思う。

彼女は勝ち組、私は負け組なのは明らか。

今になって、彼女に学んでも遅いが、O恵の結婚成功への道のりを自分の知っている範囲で振り返ってみる事にする。

入社後、担当の課は違ったので、O恵と一緒に仕事をすることはなかった。

制服の無い会社だったので、安い給料で一人暮らしの私は、通勤の服に苦労した。


会社は東京の一等地、駅前にあり、学生時代の服はとても着れるものではなかった。


O恵は、実家暮らしでゆとりがあり、羨ましかった。


ブランド品を使っていて、全く違う家庭環境で育った人という感じがして、一線を置いて接していた。


周りからは何かと比較されたが、お互い気にしなかった。
おっとりしたところもあるO恵の性格に助けられた。


入社して2年目、少しは仕事にも慣れてきて後輩も入り、これからと言う時期、O恵が突然「昨日、お見合いをしたの」と言ってきて、驚いた。

嬉しそうに社内で話すので、どんな相手なのかまで、皆に知れわたった。

 O恵は、お見合い相手の事を自分から皆に話した。

誇らしげで、嬉しそうに話すO恵の様子を見て、よっぽど気にいったんだろうと周りは思った。


(まだ相手の返事も貰っていないうちから公表して大丈夫かな)とは思ったが、「私の望む条件にあう人だったから、結婚するつもり」と即決していたのには驚いた。


それから2週間ほど過ぎた頃、O恵の指には大きなダイヤの指輪が輝いていた。


皆の前で手をかざして
「婚約しました!指輪もらったからはめてきました。」
と指輪を皆に見せていた。


お見合いから婚約までのスピードの速さに皆、唖然としていた。

「婚約って、この前お見合いしたばかりよね?お付き合いもろくにしないで決めて大丈夫なの?」

「お相手がどんな人かわかっているの?よっぽどの一目ぼれだったとか?」

などなど、先輩たちが質問責めをしていた。(良くお付き合いもしないで大丈夫なのかな。相性が悪かったらどうするのかな。好みとか彼女には無いのかしら…)などなど内心心配していた。

O恵は、何を言われてもニコニコしていた。

心配そうに聞いてくる先輩達に対して
「今までに3回会っているから大丈夫です。人柄?多分良い人だと思います。」
「私が希望した条件にぴったりあっていて、こんな素晴らしいご縁はないと思いました。」
と自信満々で答えていた。

「それより、高い婚約指輪を貰えたのが嬉しい。良い人だと確信しました。」

話を聞けば聞くほど、皆不思議な感覚を持っていた。


この時の皆の抱いた不安感が、後に当たる事になる。

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