りんごの嘆き

人生の後半もだいぶ過ぎた主婦りんごの嘆き。これからは自分らしく生きる。最後は笑って終わりたい。

カテゴリ:人生色々~小説みたいな本当の話 > 同級生、”りー”の話

「びっくりした?久し振り!」と明るい声の、りー。

戸惑う私が何を言えばいいのか考えているうちに、彼女は卒業から今日までどう過ごしてきたのかを教えてくれた。

結婚が決まり、式の日が近づくにつれ不安が強くなったという。
「一番の不安は、やはり義母親からの冷たい態度だった。
家に遊びに行くと”うちの嫁になるんだから、これから私の言う通りにしてもらう。”と言われ、彼と結婚するというより親の奴隷になる様な気がした。
彼に話せば、母親の言う通りにしてくれと言うだけ。結婚すれば、夫は母親にべったりで、私を守ろうとはしないだろう」と感じたそうだ。

結婚を急いでどんどん進める彼。りーが迷っているのを感じて益々急いでいるのがわかったという。
「結婚すれば何とかなるかと思ったけど、式が近づくにつれ、彼の態度が変わってきた」のだそうだ。

「自分の気持ちは聞いてくれない、彼と義母と二人で勝手に決める。それを押し付けてくるだけ。

彼氏の事も、結婚も嫌で嫌でたまらなくなってきて、もうこの時期にきたら婚約破棄を言っても、彼と義母は受け入れないだろう。”世間体も悪いし、絶対に式だけはやってくれ。せめて式をあげてくれたら、後で話は聞くから”と言うに違いない。
でも、そんな事信じられない。式をあげたら、今度は”式をあげたんだから世間体が悪い。お祝いしてくれた人に申し訳ないだろう”と言うに違いない。何だかんだと誤魔化され、向こうの言いなりにさせられるに決まっている。」

と考えたという。式は翌日に迫っていた。
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「逃げるしか方法は無い。そう思って電車に乗って遠くに逃げた。

実家にも連絡はしなかった。きっと実家には大変な迷惑をかけるだろう。落ち着くまでは帰れない。そう思って旅にでたの。
県外で1人暮らしをしている友人宅を転々としていた。

私はきっと大学時代の先輩や友人全てから悪者にされてるわね。皆彼のこと同情していることでしょう。」
と、私に探りをいれてきたが、私は何も知らなかったふりして、黙って聞いていた。

「大学の思い出は全て彼一色だったから、記憶から消した。唯一残っているのはあなたと仲良く過ごした事だけ。今日、電話できて話ができて嬉しかった。電話できるのはあなたしかいないから。」
と言う。

私は内心、もう関わりたくなかった。だからクールな態度をとった。

「その逃避行をしている時に、ヒッチハイクで知り合ったのが今の夫なの。車に乗せてくれて遠い所まで送ってくれた人だったの。すぐに仲良くなっちゃって。出会って数か月後に結婚したの。」

その話を聞いて、驚いた。彼女らしいと言えばそうだが。

結婚式をすっぽかして、逃げている最中にもう次の彼氏を見つけていたの?ええ?そして即結婚したの?

しかも、「大きな老舗旅館の息子だったと知り、この人なら大丈夫と思った」とか。

「今は、若女将としてがんばっているのよ。仕事は楽しいのよ。
ねえ、良かったらうちに泊まりに来てね。パンフレット送るから。」と言って電話は切れた。


それから即、パンフレットが届いた。営業の電話だったの?
その後、こちらから電話はしていないし、旅館にも行っていない。

その時の私の反応が、期待はずれだったのだろう。りーからもその後、連絡はこない。

結婚式の件で、嫌われたと思っているのかもしれない。

同級生にりーの近況を話したら、
「女将さんなら彼女にぴったりじゃない。あの人らしいわね。」と醒めた言いかたをしていた。

電話の彼女の声は、明るく充実している様だった。納得のいく結婚と今の生活が幸せならなによりだ。それは今だから言えることだろうけど。



大学時代の友人と会った時、りーの噂を聞いた。

その情報は、りーの彼氏の友人からのものだった。その人から聞いたという話をそのまま書いてみる。

「結婚式の招待状が届いたから出席するつもりだったんだ。そしたら、彼女の方は招待状を送っていないことが発覚したらしい。何だかんだともめているうちに結婚式の前日になってしまった。突然、彼女から”結婚はやめます”とだけ電話がきて、逃げられちゃったらしいんだよ。連絡もとれなくなり、行方不明になった。
全ての後始末はあいつが全部やったんだよ。式場のキャンセル、招待客への連絡など、前日にやらさられるとはねー。
結婚したくなかったのなら、もっと早くにきちんと言うべきだよね。このやり方はひどい。あいつは、毎日泣いてて、立ち直るのに時間かかったようだ。皆、彼女の事、怒っている。」
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そうだったのか。りーの気持ちはわからないでもないが、やり方がひどい。

おそらく彼女の実家は、相手側に頭を下げて回り大変な事だったろう。

人生の長い目でみれば、結婚に後悔したくなかったからこんな失敗もあるかもしれないが、無責任な行動はアウトだろう。

これがドラマの中のシーンなら盛り上がって良いのかもしれない。断るにしてももっと良いやり方が無かったのか。彼だけにキャンセルの処理を押し付けず、断る時期が悪かった事の責任はとるべきだろう。彼女自身のその後の人生の為にも、逃げて音信不通という選択はまずかったのではないか。

男性側の遠方から来る招待客も旅費やホテルのキャンセルをしたはずだ。

唯一、りーは自分だけは招待状を出してなかったから、自分の方は、迷惑をかけずに、恥をかかずに済んだ。

私も結婚式の日に、逃げたくなったから気持ちはよくわかる。でも、そこまでの現実逃避はできなかった。
あの時、結婚式なんて挙げなきゃよかったと思った。

ただでさえ、友人の少なかったりーは、結局彼氏も友人も、この件で全て失ったようだ。


その話を聞いてから、数年後、私は結婚して別の土地に引っ越ししていた。

ある日突然りーから電話がかかってきた。音信不通にしていたのに驚いた。



りーの恋人は、先輩だったので先に卒業して、社会人になっていた。

りーは、卒業と同時に結婚するらしいという話を聞いた。
大丈夫なのかな、そんなに急がなくても、もう少し独身生活を謳歌してからでもいいのにねと友人の間では噂していた。
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卒業式の日にりーに会い、少しだけ話ができた。

「私はやりたい事があるし、まだ結婚したくないけど彼が急ぐのよ。社会人になったら私が他の人に盗られそうで心配なんだって。」

彼氏の方が執着しているんだなあ、りーは可愛いもんな、心配だよね、と少しは気持ちがわかる気がしたが、りーの気持ちの方がもっと理解できた。
りーは、暗い顔で

「彼のお母さんにも何回か会ったの。何だかね、敵視されてる感じ。可愛い息子をとられたって思っている感じ。急いでいるのは彼なのに、私が結婚を迫っているみたいに誤解されてるの。彼はそれを否定せず、母親の言いなり。マザコンなのよ。歓迎されないのに、結婚するの気が乗らなくて。実家にも連れて行ったけど、うちの親は急がなくていいのでは、気が乗らないなら断れと言ってる。」

「でも、彼がどんどん話を進めてしまって、もうすぐ結納なの。招待状をだすから式には来てね」

私は「嫌ならやめるか、延期すればいいじゃない」と言ってあげれば良かったのだろうか。

今思えば、私も似た様な状況になったが、結果押し切られ結婚した。
あんな気持ちの時は、延期した方がいいと今なら思う。

当時自分も未熟で、人の結婚に口をはさむ勇気もなく、ただ聞いているしかなかった。

卒業式以降は、就職して忙しく、自分の事で精一杯でりーの事は頭から消えてしまっていた。

1年後、そう言えば式の招待状が来なかったなと気が付いた。私は呼ばれなかったのかなと思った。



当時の私は、趣味の合う友人と遊ぶ方が楽しくて、恋人ができると行動が制約されてしまいそうだから嫌だなと思っていた。

実際、りーは、友人ができる前に、恋人と過ごす時間が増えていた。
周りも気を使って誘わなくなり、りーの人間関係は狭くなっていた。

そのまま4年間を過ごしたりーは、大学時代の思い出は彼氏一色だった。
「友人と遊んだり勉強したりの思い出が何も残っていない」と卒業する時は嘆いていた。

友人との関係が確固たるもの?になってから、恋人ができるのが理想だったのと、当時の私には全くそんな気持ちの余裕も無かった。

だから、彼女に言われた事は全く的外れだった。

反論するのも馬鹿らしく、それ以来、りーとはほとんど話さなくなった。

自分は楽しく過ごしていたし、まいいやと気にしないでいた。
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そんなある時、電車でばったり、りーの彼氏に会ってしまった。
彼氏は私を見ると近寄ってきた。にこっと挨拶をしたら、怖い顔で

「あのさ、困るんだよね。僕に彼氏を紹介してってりーに頼んだくせに、すっぽかすなんて良くないよ。恋人なんてそうやって焦ってつくるもんじゃないからね。注意しとくよ。りーも僕も迷惑してるんだから。気をつけてよ。」
と怒っているのだ。

「は?何の事でしょうか?」と私が言うのを聞いているのか聞いていないのか、先輩はそのまま電車を降りていってしまった。

仮に私が、それは違うとりーの嘘だと説明しても、彼は信じてくれなかっただろう。


翌日、りーに私は抗議した。すでに、私に説教した事を彼から聞いて慌てた様だった。

まさか彼が私に直接言うなんて予測していなかったのだろう。

「誤解しているのよ。私から説明しとくわ。」と誤魔化していた。顔はかなり焦っていた。

唯一一人しかいない友人をそんな風に陥れて、何の得があるのか、理解できなかったが、もうどうでもよかった。
とにかく私に関わらないで。ほっといてとだけ言いたかった。


りーは地元のお祭りで、ミスコンテストで優勝しており、有名だったらしい。優しい両親に可愛がられて成績もよく、目立つ存在だったとか。
本人にしたら、そんな自分が大学で友人もできず、彼氏とべったりの生活なのはどこか窮屈に感じていたんじゃないかとも思った。

私が友人達とライブにいったり、ナイターや映画にもよく出かけて行ったり、アパートに泊まり歩いたりとかそんな友人達との楽しみが、彼女には無く、恨めしかったのではないかと想像した。

りーは、サークルもやめて、益々孤独になっていた。




とある老舗旅館の女将をしている古い友人、ニックネーム「りー」の話をしたい。

卒業以来、長い間ご無沙汰のままだ。
旅館に嫁ぎ、若女将としてしっかり長い間勤め、今では評判の良い美人女将として頑張っている様だ。


大学に入学し、最初の授業で隣に座っていたのがりーだった。向こうから色々話しかけて来た。

お互い地方から出てきて、何もわからず友達もいなかった時だった。
サークルはどこに入るの?と聞かれ、偶然彼女も同じサークルに入り、仲良くなった。

他にも友人は増えていたが、りーと授業もサークルも一緒で、ほとんど1日を一緒に過ごす事が多かった。

りーは、小さくてとても可愛かった。ただ、田舎なまりが強く、服も地味だったので、その美しさとのギャップがいいと先輩の男性には人気があった。

先輩達にはとても人気があるのに、同級生には相手にされていないのが不思議だった。

先輩達は、りーが何を言っても「可愛い!もっとその田舎なまりで喋って!」と喜び、彼女も嬉しそうだった。
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私は、他の友人達と過ごす時間が増え、リーとはあまり一緒にいる事が少なくなった。
彼女のテンションに疲れて来ていた。

何故同級生の男子はりーに冷たいのだろうと思い、聞いてみた。

すると「美人だけど、演技っぽいもん。表裏がありそうだから」と言われた。そして「あの子と一緒にいたから君もそういう子かと思っていたよ。」とも言われた。

それから、彼女を観察してみた。

彼女が私と話す時、標準語で声のトーンが低い事に気が付いた。幼さも感じない。普通の美人。

人前や先輩の前では、田舎なまりを共調して可愛く話す。そう言えばそうだな。何故そんな事をするのかなと思った。やはり、その方がウケるからだろうと感じた。

他の女性からも「りーは、子どもっぽいし田舎臭い。でもあれ演技っぽいよね。あなたも仲良しだから同じかと思ったわ」と言われた。

私が田舎っぽくて精神年齢が幼いのは、事実そうだった。でも、演技ではなくて自然な姿。わざとそんな風にする必要は無いどころか、もっと洗練されたいと思っていた。

りーの演技に気が付いたら、とても嫌な気分になった。
皆大人だから、彼女に冷たくする訳でもなく、普通に接していた。私も本心を隠して、普通に接した。

可愛くて先輩にモテモテのりーに、さっそく恋人ができた。当然な成り行き。

彼氏の方に気が向いてくれて助かった。解放された気分だった。

接する時間が減った分、気のあう友人達といつも楽しく遊んでいた。考えてみると、りーには彼氏と私以外に仲良しの人はいなかった。かといって執着されるのも嫌だった。

ある日の事、学食でりーとばったり会った。お互いひとりだったので一緒にランチをとった。

りーは暗い顔をしてこう言った。
「あなた、私に恋人ができたから焦っているんでしょ。私を妬んでいるでしょ。
最近私を避けているよね。悔しいから?彼に最近あなたが冷たくなったと相談したら、僕の友人を紹介してやると言うのよ。どうする?彼氏ほしいんでしょ?」

はあ~?言葉がでなかった。
                                  続く

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