母が、亡くなる1年前、かかりつけの病院で
家を出る前の体温が36.8度なのを言い間違えて38度と言ってしまった。
コロナ禍真っただ中だったので、看護師さんの表情が変わり、
すぐに別室に移動させられて、体温を再度測るように言われたそうだ。
平熱で顔色も良く元気だったので、すぐまた待合室に戻された。
お年寄りの勘違いで済まされたのだろう。

母はずっと自分の言い間違いに気が付かず、
翌日私に電話でその話をしてきた。
「看護師さんは、何故急に顔色を変えて別室に行かせたのだろうね」と不思議がっていた。
その時、毎日家で体温を測っていた母が、
「今日も38度だわ」と言ったのだ。

え?38度?と聞き直すと、
36.8度の間違いだったとわかり、それで私は理解したのだった。

母は、正確に言っているつもりだったのだ。
38と言ったのは、36.3位が平熱なのに、いつもより高めで3が8になっている事を
意識していたから、つい8を強調して口に出たのだろうと想像した。

コロナ禍で神経を使っている時に、
待合室に家では38度でしたと言う人が座っていたら
過敏に反応されるのは当然よ、
言い間違っていたのが原因だよと教えた。
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その時の母は、自分が私に言われるまで自分の間違いに気が付かず、
その日もまた私に38と言っていた事にショックを受けていた。
そして、病院に余計な迷惑をかけたと落ち込んでいた。
後日、看護師さんに謝ったと話していたが、口調が暗かった。

その時の母の落ち込む気持ちが今の自分なら良くわかる。
母はもっと前から、子どもの名前やいろんな言葉をよく間違っていたから
もっと、言葉を大事にしてほしいと思っていた。
老化現象だったのに冷たく言っていた。
これからは、それが自分に返って来るのだな。

昨日の郵便局員さんや、母の看護師さんの様に、
何も言わずに怪訝な顔で対応されたら、もっと落ち込む。
悪いのは自分なのだけど。
遠慮しないで確認や間違いを指摘してくれた方が助かる。
忙しい時や、老人対応に慣れない人なら迷惑だろうし、
そこまでの対応は期待してはいけないのかもしれないが。

年を取り家で過ごす事が多くなると、
世間から排除されていくような孤独感を感じ始めるものなのかもしれない。
年寄りは邪魔、面倒臭い、何もできないと嫌われていくような、被害妄想も強くなる。

脳の機能低下なのだからどうしようもないし、誰でも明日は我が身。
老害になると困るけど。

自分も最近、人の名前がすぐに出てこないし、記憶力も弱っている。
言い間違えが増えてきて、明日は我が身だったのが今こそ我が身になってきている。