帰省するまでは、母がまだ生きている様な、実家に帰れば母の気配を感じる気がした。
母が居なくなった事を諦めきれなかったと言うか、
あれでよかったのか、とずっと考えて居た。
それが無くなった。
今回、成仏できたのは私の心だ。
母の着物、一部の服を持ち買ってきたが
それでも、どこかで
「こんなに持ってきたら、母が着る物無くなって困るのでは」
なんて、どこかでつい考えてしまう。
どこか施設にいたり、入院していていないだけ、
また帰って来た時に、無いと困るのでは、なんてふと思ってしまう。
その度、もういないんだ、と自分に言い聞かすのだが
母自身が、また家に帰って元の様に暮らすつもりでいたから
私にもその母の無念な気持ちが
乗り移っていたのかもしれない。
でも、母はもうどこにもいないという実感は今回感じた。

これまでなら、何かを体験するたび、
母から電話がきて、こうだったよ、ああだったよ、と
感想を聞かせてくれていたが、
今回ほど、母に心境を聞いてみたい時は無い。
聞ける様な気がしてならなかった。
もし、聞けるものなら
母の事だ、長い時間、色んな事を話す事だろう。
元気だったころ、
「この世からいなくなるのが怖い」といつも言っていた。
いざ、目の前にあの世が迫ってくると
自分ら早くあの世に行きたいと言い出した。
医師にお願いするほど、苦しかったのだろう。
そのことを最後の電話で私に教えた母。
自分がもうダメだとわかっていた。
そんな事を感じるほどの苦しみって想像もできない。
でも、母は冷静で、いつも通りに話した。
取り乱す事も無く、あの頃の母は、それまでの母ではなく
浄化され、もうこの世から魂が半部抜け出していた様な、
霊的な存在になっていた気がする。
旅立つ事を全く怖がっていなかった。
このまま生きていく方が辛いと言い、
私は黙ってうなずくしかなかった。
が、父より先に逝く悔しさだけは残っていたと思う。
緩和ケア病棟に入っても楽になる訳ではなく、
こんな辛い思いをしないといけないのかと、
苦しい目にあわせたことが、私と弟の心残りだった。
そんな事も、少しづつ気持ちの整理がついてきたような気もする。
そして、母は実家ではなく、私の所に居る気がして
逆に安心した。