その人は、1人暮らしをしていた。
お孫さんがいるらしく
「孫ちゃんが可愛いの」
と嬉しそうに話す時があった。
ある時、彼女と一緒に組んだ仕事の経費の精算で
「私が一緒にだしておくから」と紙を渡され
すぐに自分の分を書いて、彼女に渡した。
それから3か月後、
上司が私に注意をしてきた。
「何で、今頃提出してくるの。とっくに閉めたやつだよ」
何のことかわからず、キョトンとしていると
その時の経費の紙の事だった。
あの人が3か月間、自分の机の引き出しに放置していたようだった。
しかも私の分だけ。
上司は「すぐに出してもらわないとこまるんだよね」
とかなり怒っている。
「え?すぐにだしてなかったのですか?
だしているとばかり~」
私が説明しようとすると
それを遮り、「これから気を付けてねっ」と言われて終わった。
人のせいにするのもなあ、と思い黙っていた。
彼女は自分で能力があると言っていたけど、
意外にだらしない人なんだと少しがっかりした。
彼女はその日は休みで、
先輩が声をかけてくれた。
「人に頼んだ自分が悪かったんです」
と言うと
「○○さんのせいじゃない?あの人はあまり信用しない方がいいと思う」
と小声で教えてくれた。
放置していた私の書類に気が付いた時、
「ごめんね。忘れてて提出が遅れたの。」と
一言私に声をかけ、上司にもそういう説明をしてほしかった。
他の人も、彼女から「私がやっておくから任せて」と
熱心に言われ、ならばと頼んだら、
実は全くやっておらず、
慌てて自分でやり直したとか
特にお金に関しての事は
絶対に頼めないと噂が入ってくるようになった。
久し振りに、その人から仕事の事で話しかけられた。
当時の私は、夫はいないし、
下の子が小学1年で
帰宅時間は遅くならないようにしていた。
会社とそういう契約で働いていた。
そこに彼女が、
「私のかわりに担当してほしい仕事があるの」と言って来た。
内容を聞くと、
その仕事は夜までかかる事が多いとのこと。
時間的に無理だと説明したが
それでも、強引に頼んでくる。
「別に遅く帰ったっていいじゃない。
仕事を頑張ってよ」としつこい。
仕方が無いので
「夫はいませんし、まだ下の子が学校に慣れてなくて
しばらくは、早く帰宅したいんです。
会社にもそういう条件を受け入れて貰っています」
と家庭の事情を言うしかなかった。
すると、そこまで笑顔だった彼女の顔が引きつり
「子どもなんてほっとけばいいじゃない。
夜留守番できない様な子に育てたのはあなたでしょ!」
「家庭を気にして残業する気の無い人はだめ」と言い出した。
私は、
「何を言われても無理です。
すみませんが他の人に頼んでください。」
と言った。
彼女は、ハッとした顔になった。
しまった、と思ったのだろう。
会社の方針が「家庭を大事にすること」
「無理な残業はさせない」だったし
彼女には何の強制力もなく、
人に仕事を押し付ける立場でもなく、
こういう言動が会社に知られたらどうなるか。
ヤバい、と気が付いたようで
また笑顔になり「他をあたるわ。」と言って立ち去った。
つい、かっとなった一面を見られて
恥かしそうにした彼女を見たら
憐れに見えた。
何か1人相撲している感じ。
それ以降、彼女とはほとんど一緒にいる事も無くなった。