その危険な香りのする人はY氏。自営業をしていて、夫とは仕事繋がりの顔見知りだった。


偶然買い物中に見かけ、夫が私にYさんの事を紹介していたので知っていた。


見た感じは紳士的できちんとした風貌だったが、本当に直感で、危険な感じがした。

その時は、まさか夫と親しくなるとは思ってもいなかったので、気にしないで終わった。


それが、夫が職場に居づらくなった途端、噂を聞いたY氏は夫に近づいて来た。


最初は夫はY氏と親しくなった事を隠していた。

次第に帰宅時間が遅くなり、残業と言いながらY氏と一緒に毎晩遊びにつき合わされていた事がわかった。
次第に夫は、毎日疲れた顔をし、無理している感じに変わっていった。


噂で夫の能力や悪い噂は耳にしているはずのY氏が、なぜ近づいて急にべったりしているのか、しかも私に内緒で。どう考えても夫の性質を悪い意味で利用しようとしているのではないかと不安になった。


「Y氏は家族がいるが、愛人Aさんと暮らしている。その人を社員として働かせている。Aさんには二十歳の娘がいるが、その娘も雇っている、それが、2人共時給は最低賃金以下で働かせ、赤字になると人の貯金を使わせているんだよ。Aさんには旦那さんがいるんだ。Y氏は、自分の為なら誰でも利用するだと有名だよ。ご主人には、私から注意はしたけど、Y氏にすっかり頼っているんだよね。奥さん、大変ですね」

夫の性質を良く知る人が、私の事を心配してくれ、教えてくれたのだった。


夫の行動が日増しにおかしくなってきた。何かにとりつかれた様だった。

つまり、夫にとってはただの逃げ場に過ぎない、次の利用する相手でしかなかったY氏だったが、それを上回るY氏の夫を利用しようとする勢いに、調子が狂ったようだった。


私は、夫に忠告した。


最初は聞き入れなかったが、段々愚痴をこぼす様になった。

「Yさんが、僕の話を聞いてくれない」と言う。
「今日も、断ったのに勝手に話をすすめてきた」


その話の内容というのは、「一緒に仕事をしないか、役員待遇で雇うよ。君の能力を高く評価しているんだよ。」とY氏から誘ってきたのだという。

普通に考えて、あの時の状況で、こんな事を言うのは考えられない。胡散臭い。だが、夫にすれば、最高の逃げ場であり、自分は悪くないと思っているから、自分を見る目のある素晴らしい人だと有頂天になったはずだ。


わかっていないのは夫自身だけだった。