「3回しか会ってないのに、決めていいの?本当に大丈夫なの?」

と言う人もいたが、余計なお節介だし、本人が良いのだから周りがとやかく言うのも失礼よねと陰で話す人が多かった。


O恵は、寿退社するのが嬉しそうだったが、これから戦力になってもらうつもりの上司たちは、がっかりしていた。


意外だったのは、誰もが私に「君が先に結婚すると思っていたよ。まさかあの子がこんなに早く寿退社するなんて思わなかったよ。」


どういう意味?と思ったが、理由をきくのが怖くて聞き流していた。


そして「君はやめないよね?」と念を押された。


事務的な仕事の他に、段ボールに入れた商品や書類を台車に乗せて倉庫から出し入れする作業も毎日頻繁にあった。

作業中のO恵に「高価な婚約指輪をしていて大丈夫なの?私なら大事に保管しとくけどね。」と声をかける先輩もいた。


結局入社して2年目にO恵は会社を辞めた。


その後結婚準備を始めた彼女が、用事で会社に来た。


結婚式の招待状の準備をしている事、花嫁修業に専念している事、専業主婦になるつもりで、共稼ぎなんて考えて居ないとの事だった。


「あなたがだした結婚相手に求める条件て何だったの?」と聞いてみた。


「一流大学卒業!一流企業勤務で高収入!長男じゃない事!実家が遠いこと!私を実家に1週間に1度は帰らせる事!専業主婦をさせる事!」

が、彼女がだした条件だという。


そんな都合の良い相手なんているのかな?と思ったが、「探して貰ったら合う人がいたのよ。だから即決めたの。」と、O恵は得意気だった。


彼女は、一流企業に就職したわけでもない。だが、相手に望む条件はレベルが高いというその自信と現実的な考えは、私には無かった。


結婚に夢見る当時の未熟な私とは結婚観が違い、彼女の気持ちを理解できなかった。


私には、そこまで相手に望めるほどの自信も自分に無かった。

おそらく彼女の魅力と家柄とお互いに周囲の薦めもあっただろうし、お相手の方の人柄も良かったのだろう。

いざとなると現実はどうなんだろう。本当にうまくいくのだろうか。と他人事ながら心配だった。