T美とのお別れから1年以上の月日が過ぎた頃、日常の忙しさに紛れて少しずつ悲しみは薄れていった。

残されたご家族も、少しは落ち着かれただろうか。子どもさん達は、そうはいかないだろうな。と遠い土地から祈るしかできない私だった。

その頃、T美の夢を見る日が何度かあった。

夢に出てきても私と会う訳ではない。亡くなった人として夢の中に登場するのだ。

あっ、T美だ。霊になって会いにきたのかなと思う瞬間に目が覚める。
不思議なのは、目が覚めた時、強い恐怖心が襲うのだ。なぜだろう、夢でも会えて嬉しいのになぜ怖いのだろう、と自分の感覚が嫌だった。


それが解決されないまま、ある日、またT美が夢にでてきた。

その夢はそれまでの様に一瞬ではなく、綺麗な映像を私が遠くから観ている様な美しい不思議な夢だった。
途中でまた目が覚めたのだが、この時は恐怖心は無かった。

美しい映像のその夢は、見たことの無い小学校の門が舞台だった。

下校の時間で、子ども達が次々と校門から出ていく、それだけのシーン。

それを私は道路を隔てた向かいの塀から見ているだけ。

すると、そこにT美が現れる。ニコニコ笑顔で、門に向かって歩いている。
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夢の中の私は、その映像は自分のいる世界と次元が違うとわかっていて、話しかける事も動くこともできず、ただ、その場面をじっと見るだけなのだ。

「あっ、T美だ。子どもさんを迎えに来たのかな。嬉しそう。」と思ったところで目が覚めた。

T美が夢にでてくると即、目が覚める。

この時は、ほっとしたような不思議な感覚だった。

彼女からのメッセージかもと思い、考えてみた。

乳がんで入院した時、3歳だった下の子供さんは、ちょうど小学校に入学した時にお母さんを亡くしたのだ。

入学式の1か月前に、人格が変化し、いつものお母さんではなくなった。

病気が治って、お母さんが帰ってきた、これからはずっとお母さんがうちにいる、と信じてきて3年、すっかり安心した矢先だっただろう。

ある日突然様子が変わった時がお母さんとの心のお別れになってしまった事になる。
幼い子ども達にその現実を受け止めさせるなんて、どれだけ残酷だったか。想像しても辛すぎる。

T美は、入学式を楽しみにしていた事だろう。一番心配して、構ってあげないとと思っていた子どもさんだっただろう。

さぞ、心残りだったことだろう。

それで、私の夢を借りて子供さんに会いにきたのかな…と思い、また涙がでてきた。