りんごの嘆き

人生の後半もだいぶ過ぎた主婦りんごの嘆き。これからは自分らしく生きる。最後は笑って終わりたい。

2018年12月



最近、右腕にしみが増えてきた。紫外線によるシミ、老化現象だと思う。

冬は長袖で隠れるので日焼けは気にしなくてすむのだが、ふと気が付くと左手で無意識に右腕をつねっている。痛くなるまではやっていないが、皮膚を指で擦ったり、ひっかいたりしている。

あ、またやっていた。と思い手を引っ込めるが、気がつくとまたやっている。

最近急に増えた右腕のシミは。紫外線のせいもあるかもしれないけど、この癖も関係あるかもしれない。


いつのまにこんな癖が。なぜ、右腕なんだろう。


私の中に心理的な何か闇があるのだろうか。考え過ぎ?


とにかく気をつけよう。見た目も悪い。夏でも長袖を着ないといけなくなる。

これが子どもの行動だったら、口には出さないけどとても心配するかもしれない。

何かストレスが溜まっているのかなあと。


自分の事だと、たいした事じゃないと思ってしまう。
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夫は未だに爪をイジイジと噛む癖がある。


「もしかして爪噛んでる?」と聞くと「爪なんか噛んでいない。指を見ていただけだ」と言い張る。
慌てるわけでもなく、恥かしがる事もなく、とぼける。

夫は、仮の話、服を脱いでても、「服は着ているよ」と言う人間だ。最悪「服が勝手に身体から離れた」とまで言う。絶対嘘だと明らかなのに、平然と言う。

幼児が悪戯をして親に叱られるのを怖がって、嘘をつく事があるが、それと全く同じ事をおじさんになってやっている。

誤魔化すという事は、”してはいけないと自分でもわかっている”という事だろう。


子どもの時から、ずっと注意されてきてて、その都度こうやって誤魔化してきたのだろう。今更私の言うことなんて聞くわけないか。でも、人前でやったらみっともないと思うが。


夫が甘えたかった義母はもういない。今頃誰も注意する人のいない部屋で、思う存分爪を噛んでいることだろう。



話をM子さんに戻そう。

会社を辞めてからも、パートさんからたまに連絡があり、色々職場の様子を話してくれた。


M子さんは、ご主人の浮気が発覚し、離婚してほしいと言われたらしいとか。M子さんはパートさん全員に毎日自分のお喋りを聞かせていた。私にしていたように。

プライベートな話を何でも話してくるので、聞かされる人はどう反応すればよいのか戸惑っていたらしい。
                                          


その後しばらくして、M子さんはご主人から「浮気相手が事故で亡くなった。離婚はしないことにする。」と言われたという。

そんなドラマみたいな事あるのかなあ。凄いなあ、と思いつつ私はM子さんの話を疑っていた。


仮に真実としたら、可哀想な話だが、M子さんが心から悩んでいる姿が想像できなかった。

M子さんも夫と似たタイプな気がした。


仮に離婚しても、ケロッとして彼女ならすぐに次の相手を見つけるイメージがあった。


辞めた会社の話題を聞いても、遠い昔の事の様でどうでも良かった。


その後、何年経ったか、M子さんの名前も忘れるほど、当時の事は記憶から薄れて行き、そのパートさん達とも次第に疎遠になっていた。
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そんな頃、近所に大きなショッピングセンターができた。

その店の食品売り場で買い物をした時だ。隣のレジの人を見た時、どこかで見た顔だなあと思った。


M子さんだった。名前を思い出せない。名札を見ようとしたが、遠くて見えない。


M子さんにこんな所で会うとはと、しかも忘れた頃に。驚いた。

M子さんの当時の家はその店からは遠く離れている。我が家からも遠かった。

だから同じ市内でも、そう簡単にばったり会う事は無いと思っていた。営業の仕事でそれこそ車であちこち回り、色んな人に会っても、M子さんには出くわさなかった。

今更声をかけるなんてしない。向こうは私の事は忘れているだろう。

そう思い、それ以降もそこで買い物をしてもM子さんの事はスルーしていた。

それからまたしばらく経って、私はPTAの役員をする事になった。

同じ役員のお母さんと雑談をしていた時、その人が自分の職場の話題をし始めた。

レジの仕事で、女性ばかりだから色々人間関係が大変だという話で盛り上がった。あるパートさんでこんな人がいるのよと話題になったその人がM子さんの事だったのだ。

名前を聞くと、聞いたことのない名前だった。M子さんの苗字は忘れたが、聞けば思い出すはず。しかしその名前は全く聞いた事のない名前だった。
M子さんは結局離婚したのだそう。この時の職場でも自分の身の上話を誰にでも話している様だった。

それで、色んな男性と付き合い、今は同棲中だという。

そのお母さんが言うには「あんなお化粧もしない皺だらけのおばさんにそうやってすぐに彼氏ができるのが不思議、性格も変わってるし、本当の話なのだろうか、と皆疑っているのよ」

なるほど。相変わらずなのね。名前が変わっているから、離婚は本当の話だろう。

結局、子どもさんはできず、独身のままだという事がわかった。

頑張って働いて、元気でいるのね。それだけでもうM子さんの事はいいわ。と思いながら、どこで誰が見ているかわからないものだなあ。怖いなあ。気を付けなくてはと思った。

それから後、M子さんはそのお店を辞めていた。今度こそ、もう会う事は無いと願いたい。



最初は、病院の長椅子に座っていた。
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段々何とも言えない不安感が増してきて、居てもたってもいられない苦しさ、我慢するとか踏ん張る事ができず、身体をどう維持したらいいのかわからない、誰か助けて!と言いたくなる様な気分の悪さが襲ってきた。

ブチッと頭の中で音がした感覚の後からずっと脳の状態がおかしかった事は確かで、酷いめまいが続いていた事だけは自覚できた。

椅子に横に倒れ込み、息が荒くなった。今思えばこれはパニック症候群に似ていたが、どこの病院でも診断はされていない。原因不明と言われた。


私の様子を見た看護師さんが、走ってきて診察室に運んでくれた。


医師は脳の疾患では無い事をチェックした後、呼吸を整えさせ、落ち着くまで病室に寝かせてくれた。


めまいはひどくなっていき、大荒れの海に流される船みたいだった。



病院で休ませてもらったお陰で、夕方には落ち着いてきた。
                                               


暗くなる頃にはやっと歩いて帰る事ができた。

そう言えばあの日、夫は病院に迎えに来る事も無く、何をしていたのか。もう忘れてしまった。帰宅した子ども達は何も知らず無邪気に夕飯を食べていた。

こんな時、やはり夫の存在も含めて、誰か協力を頼める人が必要だなあと感じた。


それからが問題だった。私はしばらくの間、外に出られなくなってしまった。

簡単な家事はできるのだが、感覚が敏感になっていて、何をしても疲労し、気分が悪くなる。

大きな病院に行ってみたが、原因不明と言われた。


脳ドック、耳鼻科、産婦人科、内科、たらい回し状態だった。

今なら、精神科にも行って、パニック発作とか何だかの診断と対処方法はあっただろう。
当時は精神科に行く勇気が無かった。

鬱病で親族が亡くなったばかりで、薬漬けになるイメージがあり、怖かった。(後に良い医師を見つける)

自分で原因を考えて見た。

夫からのストレスを溜めていた上に、M子さんの件が引き金になったと思う。出勤途中に起こったのも、無意識に身体が職場に行くのを拒否したのかもしれない。


精神科に通う事は頭になく、とにかく不調を早く治したかった。


夫は、まるで他人事で、「原因がわからないのは困るなあ。どうしたんだろうねえ。」と言うだけ。


私は買い物に出るのも困難になってしまい、仕事に復帰するのは無理だと思った。


会社に説明し、退職を了解してもらえた。


すると、M子さん以外の、パートさん達が、次々と心配して電話をくれた。

あるパートさんから言われた。

「皆心配していますよ。りんごさんはM子さんが原因で倒れたんじゃないかって。そうなんでしょう?傍からみていて気の毒だなって思っていたのよ。りんごさんが困っているの、良くわかっていたわ。でも、M子さんはりんごさんが好きで仕方ないのよね。りんごさんの気持ちなんて全くわかっていないのよね。」

え~そうだったんだ。誰も全く気にしてない風だったのに、M子さんの話題なんて一度も私にした事なかった人たち。わかっていたんだな。

「私たち、M子さんがあなたの家にお見舞いに行ったり、連絡しない様にうまく話して止めているから心配しなくても大丈夫よ。仕事を辞めてしまうのは寂しいけどゆっくり休んでね。」と言ってくれ、有り難かった。


この件が刺激になったのか、夫が仕事を見つけて来た。



バスを降りる時には、自分がどうなってしまったのかわからない初めての感覚に、パニックになっていた。
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急に目の前がぼやけ、身体に力が入らない。降りた場所は会社に行く途中のバス停。
知らない町に降りたところで、どこに行けばいいのか。


運よく、バスを一緒に降りた婦人が目の前にいた。



「すみません。具合が悪くなってしまって」と声をかけた。
そしてその婦人の手につかまった。
優しい人だった。「私これから病院にいくところだったけど。どうしますか?」と聞いてくれた。

そのまま一緒に連れて行ってもらう事は頭に浮かばず、とにかく自宅に帰りたかった。

外で倒れて、人に迷惑をかけたくなかった。この時すでにこの婦人には迷惑をかけたが、自分で動けるうちに家に帰ろうと思った。

悪い病気だとかは全く思わず、休めば治る感じがした。だが、自分がおかしくなったという恐怖心があった。
今なら脳の疾患かと思って救急車を呼ぶか、近くの病院に駆け込むだろうが、当時まだ若かったのでそこまでは頭に浮かばなかった。

「家に帰りますので、タクシーを拾ってくださいませんか」
とお願いし、必死で婦人にしがみついて何とか立っていた。

「私にも娘がいるのよ。わかるわ。ちょっと待ってね。」と言って、タクシーを止めてくれた。

タクシーに乗るとお礼を言って自宅に向かった。婦人の名前も聞く余裕もなく、お礼の言葉を言うのが精一杯だった。

タクシーの運転手に何も説明をする訳でもなく、ただ気分の悪さを我慢していた。

家まで意識が持つかどうか不安になり、自宅近くのかかりつけの病院に行き先を変更した。


運転手は、まさか具合が悪い人だと思ってもいない様で、色々世間話をしてきた。

ニコニコして、親切なので、「私具合悪いんです」と言いにくい雰囲気。世間話の相手をするなんて拷問みたいだった。黙って静かにしていたかった。

何とか平静を保とうと、運転手に具合が悪いと感ずかれない様にしていた。

今思えば、何やってるんだ、と思うが、その時の自分はネジが外れた感じで、思考も滅茶苦茶だったと思う。


病院の前に到着した。平静を必死で装って何とかお金を払い、タクシーを降りた。

降りれたのは良いが、地面が斜めに揺れる感覚。おっとと、とあっちこっち、まるで酔っ払いだ。

でも、みっともない所は見られたくないと思い、身体を斜めにしながら、ふらふらと病院の中に入った。始業時間が近かったので、会社に体調不良で休むとだけ言い、すぐに電話をきった。


タクシーの中で、運転手が話しかけてくれた事で、具合が悪い事を悟られまいと踏ん張った事が良かったと思った。呼吸の乱れ、パニックになった頭を落ち着かせられた。

気を強く保っていたから、自分で病院まで来れたんだと思った。


受付をすませて椅子にすわると、一気に気が緩み、急激に気分が悪くなってきた。



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わけのわからないM子さんの言動が、馬鹿馬鹿しくて相手にしたくなかったのだが、つきまとわれるのが本当に苦痛だった。
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家ではやっと夫が就活を始めていた。


この頃、夫が豹変したというか、素を出し始めており、実は就活はしているふりで、嘘ばかりついていた。

そんな時期でもあり、不眠が続いた。脳に水がかかっている様な感覚はまだあった。

ある日、出勤中のバスの中で、「さて、今日の仕事の段取りはどうしようかな」と考えて居たその時、頭の中で、ブチッと音が聞こえた。(感じがした)


目の前が急にぼやけてきた。身体の感覚がおかしくなった。何かおかしい、異常が起きた、と思って、バスを降りる事にした。

椅子から立ち上がって、降り口までまともに歩けないので、揺れているふりをしてあちこち掴みながら何とか降りた。


 

当時、子どももまだ小さく、家事もあるので、パートさんのほとんどが仕事が終わると速攻で帰宅していた。


ある日、夫に頼まれた用事で、帰りに寄り道をする事になった。

いつも帰りのバスで一緒になるM子さんが、バスに乗らず、くっついてきた。

「あなたも家事があって大変でしょう。帰らなくてもいいの?」と聞いたのだが、「いいの。私も主人に用事を頼まれて」と言う。

と言いながら、M子さんは自分の用事に行く事もなく、私について来た。

用事の内容まで知られたくなかったので、私は予定を変更するふりをした。

夫に質問する事があったわと言って、本当に夫に電話をかけて、M子さんには、そこでじゃあねと手を振って離れてもらおうとしてみた。

私が電話をかけ始め、じゃあねと手を振ると、すぐ横でM子さんもどこかに電話をかけ始めた。


電話の後に「予定が変わったので、急がなくちゃ。じゃあね」と言うと、やっと諦めたM子さん。

しかめた顔をし、M子さんはこんな事を言い出した。

「あなたがご主人に電話したから私も夫に電話したのよ。用事は無かったけど。」
「そしたら、夫が仕事中に用も無いのに電話するなって怒るのよ。どうしてくれるの?」
「あなたがご主人と仲良く電話なんかしてあてつけるからよ。」

私は、普段人に家庭の話はしていない、夫と仲良くしている風にしていない。

私に子どもがいる事は、知っている。

なのに
「子どもができないと悩んでるみたいだけど、私はまだ若いから子どもを産める可能性はある。でもあなたの年齢では難しいわよ。」

と捨てセリフみたいに言いながら去って行った。


誰の話?何を言っているのだろう。と唖然とした私。


M子さんは、また自分の妄想の世界に入ってしまっていた。
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M子さんは、男性の前では表情、動き、話し方まで変わる。
男性に媚びていると思われる。その動作が似合わないのだ。M子さんには。はっきり言って気持ち悪い。


最初は私だけかと思ったら、他の人も同じ違和感を持っていたようだ。


媚びる相手は、中年既婚の普通のサラリーマンのおじさま達。


男性に対する執着がある様だった。

特に相手にされる事もなく、逆に可哀想になる位だったが、M子さんは自己アピールに熱心だった。


そんな時、社員さんだけの飲み会があり、社員さん達が二日酔いで辛そうに出勤してきた日があった。

その中で、ある男性と女性社員が途中でいなくなったと噂になった。女性は独身だが男性は既婚。

2人とも、「偶然、同じ時間に帰宅しただけ」と説明していた。


それからM子さんの態度がおかしくなったようだ。


これは想像なのだが、自分以外の女性に、男性が優しくしたりするのが嫌だったのだろうか。

本来噂になるのは自分の方よと思っていたのかもしれない。


結婚しているのに、どうしてそうなるんだろう。愛に飢えているのかな。


でも男性なら誰でもいいみたいなその態度は、私の一番苦手なタイプだなあとM子さんが益々ストレスになった。

だが、良かったのは、この件で、周りの人が私とM子さんは特に仲良しでもなく、全く違うタイプだとわかってくれたことだ。

それまでは、M子さんが私にべったりしていて、束縛していた為、仲良しで似た者同士だと思われていたからだ。


本人は、虐めは妄想ではなく、真実と思っているが、どうみても1人芝居じみていて、時間に追われる私は妄想の相手をしたくなかった。

M子さんには、女性社員達には全く悪意が無い事、虐めようなんて思ってもいないという事だけ伝えた。彼女が否定しようが、私はもう関わらない様にした。
私の表情や態度で、少しは迷惑だという事を感じてほしいと思った。

それ以降、M子さんがくっついてきても気にせず、他のパートさんと行動したり話をしたり、個人的に家で電話をしたりする様になって、だいぶ気が楽になった。



M子さんが話し出した。

「仕事中に気が付いたの。パソコンの画面に後ろの人達が映って見えるの。私を皆で後ろから笑っているのよ。そして私を陥れようと皆で悪口を言い合ってる。挨拶しても無視してくるし、私をこの会社から追い出そうとしているのよ。私は何も悪くないのに、どうしてこんな目にあうのか。夜も眠れないの。毎日悲しくて、惨めで、誰とも話す気になれなくて、お昼も1人で過ごしたかったの。」


パソコンの画面に後ろの人たちが映る?自分の悪口を言っている?

そんな事まで仕事中考えて居たのか。悪口が実際聞こえてはいないようだが。なぜそう思ったのか。

別の話をして笑っているのを、自分を馬鹿にして笑っていると思い込んでいる様だった。

で、女性社員から何か嫌がらせはあったのかと聞いたが、ただ、「挨拶をしてくれない」「無視される」「自分を見る目つきが冷たい」と言う。


私には、女性社員たちは「M子さんの態度がおかしい、理由がわからない」と相談されている。


完全な板挟みの私。私の目から見て、社員たちが彼女に嫌がらせをする理由は考えられない。接触がほとんどないし、仕事が忙しく、そんな余裕も無いからだ。


同じ部屋にいて気持ち良く仕事をしたいのは皆同じ。若い社員さん達は、パートのおばさん達に神経を使っていて逆に大変そうにすら見える。


でも、M子さんにいくら被害妄想ではないかと言っても、聞いてくれそうな感じではなかった。

なので、私は「私から社員さんにうまく聞いておこうか。」と言った。

M子さんは、「助かる、お願い!」と少し元気になった。


その後、私に相談してきた社員さんに、M子さんの思いを伝えた。

予想通り、「完全に被害妄想ですね。無視なんてする理由もないし、むしろ無視されているのはこちらです。M子さんから喧嘩をふっかけてきた感じです。第一、M子さんなんて誰も関心ありませんよ。」
との事だった。

なら、どうしてそんな妄想を?と考えていたら、ある噂が耳に入り、もしかしてそれが原因?と思った。



頭の中が変な感覚をひきずりながら、パートに行く毎日。

ある日、M子さんが珍しく寄ってこない時があった。

「ごめんね。ちょっと用事があってお昼は一緒にいられないの」と言って、1人でこそこそとどこかに出て行く。誰も気にしていないが「私を放っといて。見ないで。」と言いながら。

ごめんねなんて言わなくてもいいのに。私は開放感でいっぱい。

M子さんはいつもと違い、口数も少なく、顔が更にしかめっ面になっていた。
家で何かあったのだろうか。大変そうだもんな。と思い、何も聞かずそっとしていた。というかそのまま彼女と離れてしまいたかった。


休憩時間は、自由に延び延び過ごしていた。
すると社員の女性が寄ってきて、私にこう言ってきた。

「相談があるんです。M子さんが女性社員を最近睨み付けてくるんです。挨拶しても無視するし、大事な書類も提出してくれなくて困ってます。理由がわかりません。何故そんな事をするのか聞いてもらえませんか?」

という事だった。
全く気がつかない事で、私に言われても~巻き込まれるの嫌だなあと思いつつ、協力はしますと返事した。女子社員と接触する時間はほとんどないし、トラブる機会もないはず。不思議だった。



あまりM子さんと話したくなかったが、頼まれてしまったので、理由を聞くタイミングを探していた。

すると、M子さんの方から「ちょっと話があるの」と言って、思い詰めた風に寄ってきた。


M子さんは、話し出した。
「実は、私、この会社の女性社員たちから虐めにあっているの。最初は勘違いだろうと気にしないふりをしていたの。でも、毎日確認していると明らかに私を悪意を持って見ていると確信したの。」
と、まるで舞台の上の女優みたいに?悲しそうに話す。


男性の前の態度もそうだったが、M子さんは、動きが演技っぽく見える人だった。


でも本人はわかってなくて、その世界に浸っている。この時も、職場の様子から判断しても、何を虐めというのか理解できなかった。

M子さんも私も、朝から帰るまで社員の人との接触は昼休みくらいしかない。たまに書類や社内回覧を持ってきてくれたり、こちらでわからない事があれば聞きに行く程度。仕事中は時間との戦いだから、人の事を構う暇はない。


ロッカーもパートさんは部屋が別。いつどうやって虐めをするのか。そんな事を何の為にするのか。どう考えてもありえない環境だった。というか若い独身ばかりの社員さん達は、主婦パートには関心がなさそうだった。

M子さんは、まるで思い詰めた女子高生みたいに、「どうして私はいつも不幸なの」と自分の世界に入り込んでいた。

何があったのか、なぜそう感じるのか聞いてみた。

 



 

M子さんがまとわりついてくるのはストレスだったが、家に帰れば夫がストレス、子どもの学校の問題、悩む事だらけで、ホッとできる場所が無かった。

逆に、会社では夫の事は忘れられ、家ではM子さんの事なんて全く考える暇もなく、そういう意味では気が紛れていたとも言える。

次第に頭痛がしてきて、帰宅するとあまりの痛さにそのまま寝てしまっていた。30分ほどで起き、夕飯を作っていた。


そんな時、実家から母が遊びに来た。こんな時だったので、「もう少し落ち着いてからにしてほしい」と断ったのに無視してやってきた。

私を助ける為に来てくれる時もあるが、この時はそうではなかった。

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私は仕事を休むと翌日が大変な事になり、体調も良くなく、ストレスマックスだったので、本当に困った。母が家事を手伝うなら逆に良かったが、この時は、母は遊びでやってきて、何もせず私に案内しろだの、仕事は休めばいいと言い出した。



弟に対しては絶対こんな事はしない。


私は夫にも気を使う。母は、娘は自分の道具と思っている。全く私の立場や仕事の事をわかろうとしなかった。パートなんてたいした仕事じゃない、と職業まで差別する人だった。


私はずっと不機嫌だった。早く帰ってほしいと思っていた。


すると母は、勝手に弟夫婦まで呼び寄せていた。


いつのまにかこっそり電話をしていた。
「あなたたちも来なさいよ。」と誘ったらしい。遠慮している弟に対して、私が来て欲しがっていると嘘までついていた。

私は怒った。すぐに弟に電話をして、断ろうと思ったら、もうすでに近くまで来ていると言われあきらめた。母はにんまりしていた。


結局私は2日連続で仕事を休んでしまった。

3日めには仕事に行ったが、朝も晩も大変なのは私だけ。
案の定、仕事は溜まりまくり、上司にも心配されたが、仲間が少し手伝ってくれており、救われた。



夫は失業中だったので、バツが悪く、うまくご機嫌をとりながら、3人を接待していたが、内心不機嫌だったはずだ。「何でこんな時に来るんだよ。嫁の親なのにずうずうしい」と。
その夫からの嫌がらせが後から私に降りかかろうが、母は知っていても気にしない。


母も弟夫婦も誰も家事を手伝うことはなかった。朝もご飯の準備ができてから、全員のんびり起きて来た。布団の上げ下げまで私がやっていた。


腹がたち、母に文句を言った。
「私は仕事を休んだから大変な事になってるのよ。勝手に弟夫婦まで呼んで、迷惑でしかないわ。何考えてんのよ」と言ったがふふんと笑っただけで母は満足して帰って行った。



だが、この時以来、夜は眠れなくなり、とまらない頭痛、夫の勝手な行動、M子さんの存在、母への怒り、生活の不安、で私の頭の中が興奮状態になっていた。

脳の上を水が垂れている様な、変な感覚がしてきた。



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