先日の鬱病になった叔母のトキ子さんの話に戻りたい。
最初の発病から、かなり元気に回復した時が何年かあって、その時に病気について色々教えて貰った事がある。
トキ子さんが、初めて鬱病と診断されたのは、37歳の時だった。
しっかりとして、いつも元気で、活発な叔母。
結婚以来、元気に家事、育児、義親との同居生活を愚痴も言わずにこなしていた。
そんなある日、家族でプロ野球観戦に出かけた。大声で声援を送り、楽しく過ごしたという。
試合が終わり、さあ、帰ろうかと全員が立ち上がった。
その時、トキ子さんは、なぜか足が動かなくなり立ち上がれなかった。「えっ?何?」と自分でも何が起きたのかわからなかった。
その日は抱えられて、何とか帰宅した。
突然の身体の異常にショックを受け、翌日病院に行き検査を受けた。が、「何も異常は無し」と言われる。
(そんなはずはない、何か異常があるはずだ。もしかしたら癌では?医師も家族も私に隠しているのかもしれない)と疑い始めた。
(自分は癌が悪化していて、余命も短いのではないか)と思い込む様になる。
色んな病院に通い訴えても異常なしと言われる日々、その帰り道に癌についての本を何冊も買っては帰り、読み漁っていたという。
気にすればするほど、益々身体は重く動かなくなっており、体調が悪くなっていた。
それで「癌に違いない」と確信してしまう。
「子どもはまだ小さい、私が死んだらこの家はどうなる。私がいなければ誰も何もできない。どうしよう」と毎日悩み苦しむ日々が続いた。「私は癌なのでしょ!」と家族に聞いても、誰もが否定する。
「私だけが騙されているんだ」という孤独感が襲う。
夜も眠れず、幻覚も見る様になった。
病院で、精神科を勧められ、やっと鬱病だと診断される。
癌だと思い込んでいるトキ子さんは、「病気ノイローゼ」になっていた。
癌ではないとはっきり言われ、癌の不安はとれたのだが、鬱の症状は診断まで時間がかかった為に悪化していた。
当時、今ほど心身症や鬱病などの精神疾患が世間では知られておらず、世の中の理解も少ない時代だったと思う。
私はこの時、叔母に教えてもらった事で、鬱病の深刻さを知った。
トキ子さんはこう言った。
「自分が病気になるほどのストレスを抱えていたなんて自覚は無かった」
「でも、そう言えば結婚してから色んな大変な事があって、頑張りすぎてたみたい」
「そもそも、結婚した事だって、自分はあまり乗り気じゃなくて旦那さんがあまりに熱心だったから、そこまで私を好きになってくれるのなら、きっと幸せにしてくれるかなと思ってOKしたのよ。それが結婚したら、全然話が違っていた。」
と言って、それまでの結婚生活を振り返って話してくれた。
その振り返りは、治療でも使われ、医師にそれまでの自分を振り返り、話し、何がストレスだったのか、自分の抑え込んでいた本心に気が付く事も病気の回復に繋がると言う。
原因であろう問題がわかれば、医師から家族へもカウンセリングが行われたそうだ。
(この話は、だいぶ前に叔母から聞いた話で、遠い記憶から書いていますので、正確さに欠けるかもしれません。ご了承下さい。)