もうかなり昔の話で、あや子さんの事はすっかり忘れていた。
森大臣を見ていて、思い出すなんてびっくりする。

今どうしているのだろう。


私が新卒で就職して3年後に、あや子さんは入社してきた。
お父さんが大手商社の管理職だった。友人だった(当時の私の会社の)上司に頼んで入れて貰ったとの事だった。

縁故なら自分の大手商社に入れれば良いのに、こんな小さい会社に、しかも人に頼んで入れたお父さん。何か事情があったのだろうか。

あや子さんは有名私立大学卒だったし、一見真面目そうだし、コネを使わなくても自力で就職できただろうに、と思っていたが、ともかく美人で聡明そうな新入社員に皆が期待していた。
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あや子さんは、私の斜め横の席になった。仕事は私とは別の担当で、女性先輩が彼女の指導係になった。


その先輩と私は個人的に親しかった。お互い都会の1人暮らしという事で、夜遅くまで一緒に過ごしたり、悩みを打ち明けたりしあう仲だった。

おとなしく、素直な印象のあや子さんの最初の頃の評判は良かった。

私とは仕事で接触がなく、社内で話す機会は少なかった。

なのにある日、あや子さんから声をかけられた。「相談があるので、一緒に夕飯食べませんか」と言われた。

社内に友人もまだできていないし、年齢の近い私なら話易いのだろうと思い、彼女の力になろうとその時の私は思った。

仕事を終え、二人で駅近くのお店でお喋りをした。

彼女はもじもじしていて、なかなか話し出さない。

私から「会社にはもう慣れた?相談て何?」と切りだした。

すると決心したように、思い詰めたような目でこう言って来た。
「絶対、誰にも言わないで欲しいんですけど。実は…」