母の帽子は好評で、サイズもぴったり。

よく似合っていた。

駅に着いた時、迎えにきてくれた弟と一緒に母も立っていた。これまで行動の制限があり、退屈だったので、気分転換に出て来た様だった。

頭にはスカーフを巻き、その上からサンバイザーというおかしな頭で、帽子を買ってきて正解だった。
髪は、まだらに脱毛し、何かかぶらなければ目立つほどになっていた。

春夏用と秋冬用を1個づつプレゼントした。
秋冬用の帽子は、えんじ色で可愛いデザイン。私が気に入り、もし母がいらないと言った時は自分が使うつもりだった。

どんなに歳をとっても女性は女性。
いくつになってもお洒落をしたいし、可愛い綺麗な物に憧れる。
しかも今のお年寄りは、青春時代を戦争で滅茶苦茶にされ、お洒落どころでは無かったのだ。

その為、少女時代のお洒落をしたい気持ちは心の奥底に封じ込めただろう。
今の高齢者たちは、お婆さんだからと言って、暗い地味なものをあげるより、刺繍の綺麗なハンカチとか、レースのブラウスとか、オルゴールの宝石箱とか、可愛いポーチとか、そういう少女チックな物に憧れているんじゃないかと思う。

だからプレゼントをする時は、そういう少女系の物をあげている。

予想とおりに、喜んでくれる。「誰もこんなのをくれないし、自分でも買うことはない。恥ずかしい。
だからもらえるとすごく嬉しい」みたいだ。
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以前、弟たちからもらったプレゼントが、グレーの足ふきマット?かと思ったら、「お母さんのひざ掛けだよ」と言われてショックだったらしい。「これが似合うと思われるほど老婆になったということ?」と。

気持ちが暗くなり、押し入れにしまい込んだと言っていた。
珍しくせっかくプレゼントをしてくれた弟夫婦に悪いからと、口では喜んだふりしたが、心の中は自分が歳をとったんだということを思い知ったようだった。

この相手が私だったら、「こんな地味な色、使いたくないわ!」とはっきり言われただろうなと思いながら、ハイハイ、勝手にどうぞ、と聞き流している。