夜、さあ寝ようかなと思っていたら、母が叫んだ。
「あ。リンパ腫って書いてある」
「悪性って書いてある!」

え?何を見てるの?やばい!と思い、見てみると、封がしてあった病院の封筒を勝手に開けて見ていた。

そんな封筒をなぜ置いている?弟は何をしているのだ。

病名を書いている書類は弟がうまく隠したと聞いていた。封がしてあるから大丈夫と思って渡したらしい。

「これは開けたらだめなのよ。転院する時必要なのよ。」と怒ったら慌ててさっと封を閉じた。

なので私はその書類を見ていない。


綺麗にそっと開けていたので良かったが、自分あてのものと勘違いした様だ。


確かに封筒を見ると、○○様と母の名前が書いてある。自分あてだと思うはずだ。

下の方に、「転院する際はこれを病院にお渡しください」とある。そこまで読まずに開けたのだろう。


「悪性」という文字にショックを受けていた。癌という名前が無かっただけが救いだ。

悪性といっても、完治するタイプのもあるし、あまり関係ないのよと話しておいた。

医師は弟に「一番悪いタイプのもので、週単位で悪化するので緩和ケアをしますか」とまで話したらしい。嘘みたいだが、誤診では無かった。
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夜、寝付けなかった様だ。当然だろう。それにしても、こういう封筒は弟が持っててほしかった。

弟はいっさいそういうフォローはしない。もしその場に弟がいても黙っていただろう。その態度を見て更に母が不安になったに違いない。

それから色々私が病気の事を説明し、良い薬もあるし、不治の病ではないと淡々と言ったら、なあんだと元気になった。

身体は調子も良く、自覚症状が無いので尚更そうだよね、元気になるよねと思えるのだ。

ただ、1カ月で6キロも痩せた。その姿を見るとただならぬ病気という感じはする。

「年齢的にも、どっちみち先が短い、仕方ないよね」と母が言い、「私だって死ぬのよ。病気にならなくても、誰だっていつかは寿命がくるのよ。仕方の無い事よね。」と私が言う。

「老いたということね。当たり前の事ね。」と気持ちが落ち着いた母。

ああ、疲れた。それで、私は明日とりあえず帰宅することにした。

骨髄検査の結果がでたら、また来よう。

母も、私が段々イラついてきたのを感じ、「いったん、帰った方が良くない?」と言い出した。

自分の居場所の無い、実家。自分の部屋は物置、私の寝る場所も無く、茶の間のすみっこで寝る。
両親はきちんと寝室があり、自分たちの居場所を確保している。

2階に広いスペースがあるが、父が占領し、使わせてくれない。

実家は親の老化と共に変貌していく。