続き
 
まさか夕飯までお金を払わす気かと驚いた。

でも、彼は「貸して」と言っているのだ。「払って」と言っている訳ではないのだ。

財布にはぎりぎりお金が残っていた。

私は断った。「もうアパートそこだし、帰る。」と言った。

するとM君は、「もっと一緒にいたいからさ、一緒に食べたいんだ。」と甘えた。

お金がこれしかないからと話して、予算内ならという事で、結局一緒に駅前のレストランで食べて帰った。
その時の彼の食べっぷりも凄くて、驚いた。


この人の食費は凄いのだろうなあと思ったら、もうこれだけで、料理コンプレックスのあった私には結婚相手には無理だと思った。


当時の私は、若さゆえ、今よりずっと気が弱く言いたい事も言えず、お人よしだった。

M君は、スタイルが良く、顔もきりっとして爽やか好青年、ボンボンで育ちの良さそうな大人な印象があった。

結構、周りから一目置かれていて、人気があった。


だから仲良くするとすぐ噂になっていた。

私は恋愛感情は無く、本当に友人と思っていた。

M君は、失恋の傷が癒えてない時期に、たまたま私に励まされて、甘えていただけだと思う。

傍から見れば、私が励ますなんて、そんな風には見えなかったと思う。

田舎臭くて、おとなしくて何も言えなくて弱々しい私を、大人なM君が励ましているのだろうと、現実とは真逆に思われていた。


まさか、M君がこんな遠慮のない人だったとはと私も見た目とのギャップに驚いた。


この日、多めにお金を入れていったつもりが、財布は空っぽになり、その後の生活費が不足する事態になった。


「普通なら、借りた翌日にはすぐに返すだろう。お財布を忘れただけで、お金が無かった訳ではないのだから、それにM君は裕福な家の子だ。」と思い、安心していた。


翌日から学校で毎日会っていたにもかかわらず、M君はお金を借りた事は一切話題にせず、1週間たっても2週間たっても返してくれなかった。


催促するのも気が引けて、ただただ毎日、(早く返してほしい、あなたにとってはわずかなお金でも、私にとっては大切な生活費なんだー)と内心思っていた。

お金の事は人に愚痴りにくいし、彼の名誉の為にも自分ひとり、悩んでいた。


おごってやったと思えばいいじゃないかと自分に言いきかせたりもした。


自分が男子だったら最初から奢ったかもしれないから、気にならなかっただろう。
男の子のM君が、あたり前みたいに女の子に払わせるあの態度がどうしても引っ掛かった。

何の恥じらいもためらいもなく、むしろ、払っとけよみたいな態度。


財布を忘れたのは自分が悪いのに、何で私が偉そうにされなきゃいけなかったのか?

そう言えば、「有難う」とか「助かったよ」とか、全くお礼の言葉も無かった。

もしかしたら、最初から私に払わす気だったのか?財布忘れたは嘘か?

なぜ、借りた事を忘れたふりして返さないのだ?

プライドがあるなら、すぐに返すよね?同性同士でもすぐ返すし、こんな事しないよね。


と色々考えていたら、M君は、見かけとは想像できない誰も知らない一面を私にみせたのだと思った。


この話をしても誰も信じないだろう。と思う位、M君は人望があった。

お金はたいした額じゃないし、あきらめて、M君とは離れようと思った。