叔母のトキ子さんは、結婚するまでデパートに勤めていた。
美人で明るくとても人気があったそうだ。
なので成績の良いできる社員だった。
当時、お客様だったご主人は、その中でも一番熱心にアタックしていたらしい。
「今思えばもっと条件の良い人がいたのに、この人は私でないといけない人なのだわ。と勘違いしたのが間違いだった。」
「この人は私でなけりゃダメなのよって思うのはやめた方がいい。そんなのありえないから」
「どんなに相手が、そうやってすがりついてきても、騙されてはダメ。冷たく見えるようでも、ふったら案外ケロッとしてすぐ次の女性を見つけるものよ。」
と言っていた。ご主人に「あなたじゃないと駄目なんです!」とすがりつかれ、「そこまで自分を愛してくれ、必要としてくれるなんて!」と感動して結婚を承諾する事ってあるのではないかな。
叔母は、結婚してみたら、現実は全く違っていた。(どの家でも多少はそうだと思うが)
旦那さんもトキ子さんもお酒好きだが、トキ子さんは義両親の世話と自分の子どもの世話に追われ、自由はない。旦那さんは毎日の様に飲んで帰ってくる。
夫婦の時間もない。文句を言うとどなり散らされる。そこへ姑は息子をかばい、嫁を非難する。
トキ子さんは孤立していた。
「旦那さんが結婚する前に、熱心に私が必要だって言ってたのは、要するに親の面倒と家事やる人が必要だったってことだったのか。」と結婚を後悔する叔母。
いつも元気に明るくしなきゃと思い、「仕方ない。子どもがいるし、離婚なんて無理だわ。諦めよう。」と愚痴をこぼすのをやめたという。
そこへ、とんでもない事が起きる。
ある日の夜、夕飯を食べていると、見知らぬ男性数人が、どかどかといきなり家の中に入ってきた。
「さっさと貸した金返せ!」と怒鳴られる。
何の事かわからず、茫然としていると、旦那さんの兄(長男)が多額の借金をしており、返さずに逃亡していたのだ。保証人を勝手に親にしていた。
多額すぎてとても返せないと話す義親に対して、更に男らは大声で迫る。
恐い男性達は毎日の様に催促にきたそうだ。(本当にそんな事があるんだと驚いた。今と時代が違った。)
長男は行方不明で、どうしようもなく、少しずつお金を渡し、長い年月をかけて返済したのだそうだ。
義兄の借金を義親の年金と叔母の旦那さんの給料から返していった。
少しはお嫁さんである叔母に対して、申し訳ないとわびる事もなく、ご主人と義両親の態度は変わらなかった。
それどころか、借金のストレスから、舅や旦那さんまで家庭内での態度が荒れていった。
「私はこんな目にあう為に結婚したんじゃないのに。」と言いたいのを抑えて、トキ子さんは子どもを守る為に頑張っていた。
結婚前は、あんなに大人しくて、おどおどしながら「あなたが必要なんです」なんて言っていた旦那さんは、別人の様に変わり、「うるさい、文句言うなら出ていけ。代わりは誰でもいるんだぞ!」とまで言う様になっていた。
トキ子さんの身体に、最初に異変が現れたあの日の事⇒叔母の鬱病~話が全然違った結婚生活
家族でプロ野球観戦に行った日。あの時、義兄の借金返済がやっと終わったところだったのだ。
お祝いを兼ねて、皆で出かけたのだった。
球場で「ああ、良かった。もうあんな怖い思いをしなくてすむんだ。これからは、やっと心安らかに幸せになれるよね」と呟いていたそうだ。
ホッとしたその時、足が動かなくなった。
そこから病との戦いに入ってしまった。
人の身体と脳、精神の仕組みは、複雑すぎてよくわからない。だから怖い。
「愚痴を言っちゃいけないって思っていたのもよくなかった。家で言えないなら外で言えば良かったのよ。世間体を気にして外でもいい格好していたのも精神に負担をかけていたみたい。もう、私は格好つけない。言いたい事言う様にしたわ。医師からも家族に注意してもらって、旦那も私に何も言えなくなったし。」
と回復していた頃のトキ子さんは、次から次へと襲う困難を乗り越えて、すっきりした様子に見えた。その時は。