その後、私も亜紀も結婚して引っ越し、すっかり疎遠になっていた。


今はもう年賀状のやり取りだけになっている。


なので、あれから年賀状や同級生からの噂で亜紀の様子は知る事はできたが、ケイさんの事は全くわからなかった。友人のお兄さんの事だし、わざわざ聞く事も無かった。


十数年経った頃、大学時代の別の友人から電話がかかってきた。同窓会の連絡だった。

色々友人たちの近況をお互い知っている範囲で教え合った。
亜紀の話題になった時、この友人から意外な事実を聞いてしまった。かなりのショックを受けた。

電話をくれた友人は、亜紀とはそれほど親しくはなかったのだが、亜紀と実家が近所で、お母さん同士が親しいのだそうだ。

ケイさんの事は、以前からお母さんを通じて全て知っていると言う。亜紀の前では何も知らないふりをしていたそうだ。

私は、あえて詳しくは知らないふりをした。


友人が、亜紀のお母さんの事を「見かけによらないのよ。あの事を母から聞いた時はがっかりしたわ。」と言う。

「あの事って?」と聞いた。

「亜紀のお兄さんの最初の結婚のゴタゴタ知ってる?」ときかれたので、私は知らないふりをした。

「本当にお嫁さんのミキさんは、可哀想だったわ。私彼女の気持ち、良くわかるわ。悪いのはケイさんとお母さんよ。私もあんなお母さんとは仲良くできないと思う。」と言う。


私の知っている情報では、「ミキさんの理解不能な強硬な態度が離婚原因」と思っていたので、この言葉には驚いた。

「なぜそう思ったの?」と聞いてみた。

「この話、私の母しか知らないと思う。もう昔の話だし、亜紀とも付き合いがないから話すわ。でも、ここだけの話よ。」友人の声が低く小さくなった。
そして、話し出した。

~~~~驚いた真実とは↓~~~~~

実は、ケイさんとミキさんは、おめでた婚だった。すぐに結婚をしようってケイさんはプロポーズし、子どもができた事も喜んだ。
しかし、ケイさんの母親は「世間体が悪い」と子どもを産む事に反対した。

「嫌です!産みます!」とミキさんは主張した。ミキさんは、自分の親に話しても、父親が反対して無理やり連れ帰らせられると思い、何も話さず、ケイさんと二人で頑張ろうと決意していた。
ケイさんは、自分の親なら理解があり、協力してもらえると信じていたが実際は違った。

それから毎日、お母さんはケイさんに電話して説得を続けた。

ケイさんは、優しいというか優柔不断で、強く親に言い返さなかった。お母さんはケイさんに、家族を養うのはまだ無理だとか不安な話をして、産むならミキさんとの結婚は許さない。結婚するなら親子の縁を切るとまで言った。

結局、当時まだ新入社員で、自分の力に不安のあったケイさんは、親の理解なしに結婚はできないと諦め、お母さんの気持ちを受け入れた。

ミキさんに、子どもは諦めるように言った。ミキさんはケイさんの裏切りに取り乱した。
ケイさんと結婚したいなら、子どもを諦めるしかないという残酷な選択を迫られたのだ。

実家に頼る気のないミキさんは、ケイさんを選ぶしかなかった。

その時、お母さんが横にいて、「気が変わらないうちにさっさとやりましょう」と言い、泣いて嫌がるミキさんをケイさんとお母さんが引きずって強引に病院に連れて行った。

~~~この話は闇に葬られていた。ケイさんとお母さんはその後何もなかった様に振る舞っていた。

ミキさんの気持ちが落ち着いた頃、結婚話が進みだした。というのが真実だった。

当時の亜紀の話は事実と違っていたのだが、おそらくあの頃の彼女も真実は知らなかったのかもしれない。